「鞄工房日下公司」店主 日下功二さん

※「鞄工房日下公司」の製品は札幌スタイル認証製品の認証を終了しました。

「定番をアップデートし続ける鞄職人」

koji kusaka 「おはようございます。いい天気!小鳥の鳴き声がよく聞こえる。カラスもだけどね。」・・・

koji kusaka 「二十歳頃から三十近くまで下北沢で夜ごと呑んだくれて過ごしていた。その頃の呑み仲間の大先輩から電話があった。十数年ぶりの声。小樽の叫児楼でたまたま手に取った雑誌に載っていた私を見つけて電話をくれたとのこと。今度会いにきてくれるとのこと、嬉しいなぁ。」・・・

koji kusaka 「継の製作に入る前に、包丁研ぎ。鉋刃も研ぎます。」・・・

これはある日の鞄工房日下公司さんのツイート(ツイッターのつぶやき)を抜粋したものだ。彼はいわゆる「職人」から連想される昔気質なイメージからは想像し難い。ブログやツイッターといった現代のITメディアをいち早く取り入れ、巧みに使いこなす新鮮な感覚を持ち合わせている職人なのである。
日下さんは言わずと知れた、札幌スタイルの認証製品を持つ作家のかなでも初期の頃からの構成メンバーである。その細部にこだわり、製法にこだわり、妥協のない仕事から生み出される作品の数々は東京からも固定客がくるほどのクオリティーをもっている。
その彼が三笠で自宅横の小さなスペースで工房を開いたのが16年前。それまでは東京の革製品の工房などで働いていたという。

「革との出会い」
ではどういう経緯で日下さんは革製品を作るようになったのか。大学の芸術学科で現代美術を専攻していた彼は、作品制作でボクシング用のサンドバッグとシンセサイザーを組み合わせた作品を作ったという。そのサンドバッグを自作したことが初めて革という素材を意識した瞬間だった。その後軽井沢でアルバイトをしていた頃に「革の子工房」の店主、不破さんと出会い、店によく通っていた。不破さんというユニークなキャラクターと、生み出される革製品の魅力に非常に刺激を受けたそうだ。
幼少の頃より「自分で遊ぶものは基本的に自作をしていました」というほど当時から創作意欲は旺盛だったようだ。「数年に一度買ってもらえるプラモデルが壊れたら、その部品バラして別のものを作っていた」ところに、彼の常に工夫を凝らしてモノを進化させていくという精神がすでに垣間見られる。

「“鞄職人でHPを使って販売することをし始めたのは日本で最初かも”」
北海道へ戻り工房を開く際に大枚をはたいて買ったものがある。それは、当時としては出はじめで高価だったコンピューターのMacintosh Performa5210と、デジタルカメラのカシオQV-10である。「これからはインターネットの時代だ!」という強い思いと、そこで「いかに販売するかの仕組みづくり」をしていこうと考えたからだ。
80年代から始まった「パソコン通信」をモデムを通して行い、試行錯誤しながらホームページを作って「販売システム」構築を模索してきた。「当時ただホームページに情報を載せるだけでなく、僕みたいに売るための仕組みづくりを考えて販売し始めた鞄職人は日本で最初かも」。
それから10年以上が経ち、現代は正にITの時代になった。「鞄工房日下公司」のホームページはシンプルなレイアウトながら非常に洗練されたものとなっている。作品の写真や情報の更新速度が早く、ブログも定期的に更新され続けている。それは、長い間の経験の蓄積が行き着いた結果の、ある種コミュニケーションツールとして機能しているように感じられる。この、時代を先取る嗅覚が優れていることが日下公司の見えない職能となっていることは間違いないだろう。

「”リアル”の重要性」
こうしてウェブ上での販売を考え続けてきた日下さんだが、今は皮肉にも「リアル」であることの重要性に気づいたという。お客さんにお店に来て、見て、触れてもらい話をする。こうしたことで買ってもらう人がより満足してもらえる。また、実際に手にとって感じてもらわなければ分からない部分も多いという。そこが作品のアピールポイントであり日下公司謹製という職人の腕を表現できるところなのだ。「モノづくりの基本は刃物の研ぎにあると思っています」という言葉からも、彼の研ぎ澄まされた鋭い感覚とモノづくりへの姿勢が伝わってくる。
顧客とのコミュニケーションをとる工夫は、意外なところにも見られる。毎年年賀状用に作るポストカードの写真を自ら撮影するのだが、北海道や札幌の名所に作品を置いて撮るのだそうだ。そしてそれを購入したお客さんに作品と一緒に同封する。こうすることで北海道の良さを少しでも感じてもらい、お店にも来てもらいたいと考えている。そこで新たなコミュニケーションが生まれる。

「進化を続ける”定番”」
日下さんの生み出す作品は、過去の札幌スタイル認証製品の「スター」を除けば奇抜なデザインのものは少ない。実際、日下さん自身「要素としてはかなりベーシック」と認めてもいる。
ただ、その一つ一つのパーツの質が恐ろしく高い。「一見同じに見える製品でも、微妙な改良を加えている」から当然量産できる訳もない。「(同じものでも)毎年より手間を掛ける作り方になっている」と苦笑するほどだ。それも一重に長く使ってもらいたいとの思いで常に工夫し続けているからだ。
そうして鞄を作り続けて16年。中には修理を依頼されて「里帰り」してくる鞄たちもある。その鞄を見て、新しいアイデアや次なる工夫のヒントが見つかる。それが現在にまた生かされていくという、一つのサイクルが鞄職人としての喜びでありやりがいでもあるのだろう。

「新たな取り組み」
今後の鞄工房日下公司はどういう展開をしていくのだろうか。
ヒントは二つある。一つは数年前から日下さんが取り組んでいて、去年やっと製品として使えるようになった革がある。北海道に多く生息しているエゾシカの革だ。日下さんは、同じく革製の作品を作る、Ezo Bagで有名な24Kの高瀬さんらと協力してエゾシカの革を作品の素材として活かす取り組みをしている。
エゾシカは、現在生息数30~40万頭と推測され道東地方を中心に深刻な農林業被害をもたらしている。そのエゾシカの食肉以外での活用法として革を使っていこうというのが日下さんたちの考えである。
既にエゾシカの角や、革を裏地に使った作品も出している。だだ、まだまだこれから乗り越えなければならない課題が山積しているそうだ。

もう一つはやはり札幌スタイルの認証作家同士の協業だ。流石なのは、彼が目に見える、いわゆる「コラボ商品」的なものではなく、お互いの相談やアドバイスを通して自分の作品をよりよい方向に持っていくことを考えていることだ。例えば、木工作家に木型についてアイデアを聞くこともできる。
この二つの流れにあってなお、鞄職人日下公司の立ち位置はブレない。あくまで誠実に、毎日鞄を創り続ける。もしかすると、工夫し続け、考え続ける日々そのものが彼にとっての「新たな取り組み」なのかもしれない。

(2011年12月)

認証製品詳細
 ショ・レ・マロン(2011年12月、認証終了)
ミュージックケース (2011年12月、認証終了)

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