フェルト作家・カンテレ奏者 おおいえのりこさん vol.2

「純粋なひと」
手稲の小高い山際の住宅地に羊毛フェルトクラフト作家のおおいえのりこさんの自宅がある。北欧の田舎にあるような木造2階建てのほのぼのとした佇まいだ。住居はアトリエも兼ねている。おおいえさんは善の人である。それはかつての少女がそのまま大人になったような純粋で無邪気な善。
そのふわっとした雰囲気がそのまま彼女の作品「ふわふわラムキン」に表れている。この羊毛を使った可愛らしい羊のぬいぐるみは見る人を幸せで温かい気持ちにさせてくれる。

おおいえさんの実家は岩内にあるおもちゃ屋さんであった。子供の頃から当たり前におもちゃに囲まれて育った彼女は、幼いころから常に自分の世界をもっていた一種「夢見がち」な少女だったそうだ。実際「小学校4年生までサンタクロースを信じて」いたほど。
こんなエピソードがある。クリスマスプレゼントを買うために他のお父さんやお母さんはおおいえさんのお店を訪れる。おもちゃが綺麗にラッピングするのをみながら彼女は思ったという。「みんなの家にはサンタクロースがこないんだ・・・」。というのも、彼女の家では実家のおもちゃ屋さんのラッピングと違う包装紙でいつもプレゼントが届いていたからだ。幼い彼女は、皆の家にはサンタクロースがこないのでわざわざプレゼントを買いに来なければならないのだと思ったそうだ。
ラムキンのキャラクターも、キティちゃんやその他のサンリオキャラクターに囲まれていた体験がベースになっているのではないかと本人は考えているようだ。
そんな彼女は驚くことに幼稚園児だったころより編み物を友達に作ったものをあげていたそうだ。編み物を始めたのは、「ウールの手触り感と北欧の雰囲気が好き」だったから。非常に手先が器用だった彼女は小学1年生ですでに友達にあみぐるみの作り方を教えるほどの腕前だった。その友達が作文で彼女のことを褒めてくれたことが子供心にとても嬉しかったそうだ。そんなこともあり、作ったものを人にあげると喜ばれるということを幼い頃から分かっていたという。

「maaberry誕生」
社会人として働くようになっても、趣味で自分の使うものを作っていたおおいえさんだったが、「社会に出て自信がついた」ためか、自分の作ったものをみんなに見てもらいたいと積極的に手作りクラフトのアートマーケットなどに出店するようになる。その頃から「北海道らしいものをつくりたい」と思うようになっていった。
同時に日本の伝統工芸にも興味をもつようになり、仕事をしながら札幌市立高等専門学校に通って工藝デザインや環境デザイン、「漆塗り」の技法を教わる。一見現在のおおいえさんの作品のテイストと全く違うように思うが、この経験を通してモノづくりとは何かを学んだという。

確かにおおいえさんの作品は使う素材の質にこだわって作られている。年に数回美深町は仁宇布にある松山農場へ自ら行き羊の毛を仕入れてくる。ここの羊たちは混血が多く羊の毛の色と質感が作品を作る上で面白いのだという。
既製の羊毛を使うのではなく、羊の毛刈りの現場に実際に立会い、自身でその羊毛を選別しゴミを除去してクリーニングする。時には染色もしなければならない。非常に手間がかかる作業である。さらに手作りで一つ一つ丁寧にラムキンを作っていく。

作り始めた当初は仕事をしながら制作に明け暮れたという。中央区にあった「FAYA」にはじめて出品して以来その愛らしい表情とふわふわとした雰囲気で人気なのである。そして2006年maaberryブランドとして本格的に制作活動をスタートした。現在では新千歳空港のお土産物コーナーやJRタワーはもちろん、埼玉や愛知などの本州にも取扱店があるほど販路を着実に拡大しつつある。
ただ、悩みもあるそうだ。需要が多いため在庫を確保するのが難しい。毎年札幌の大通公園で11月~12月に行われるミュンヘン・クリスマス市の時期は特に多く売れる時期だが、生産が追いつかないこともある。ラムキンのみならずクリスマスサンタクロースは時期ではなくてもそのかわいらしさから欲しい人がたくさんいるに違いない。そして、2009年度札幌スタイルに認証されたことでさらなる飛躍が期待される。


「別の顔」
おおいえさんは、フェルト作家としての顔とは別の顔もを持っている。フィンランドの民族楽器「カンテレ」奏者でもあるのだ。子供の頃に琴を習っていたことがあり、成人したあとも何か楽器をやりたいと考えていた頃に出会ったフィンランドの楽器、それがカンテレだった。その透明な音色と独特の響きは聞く人の心を癒してくれる。まさに彼女の世界観にぴたりとはまる音色なのだ。

おおいえさんはその音に惹かれ、弾き方を習いにフィンランドへ飛んだという。自分の本能や求めるものにあくまで純真な彼女の姿が想像出来る。
2008年ファーストアルバムをリリースし、アマゾンでも好評を得ている。今までのバンド活動の他に、最近ではソロ活動でも様々な場所で活躍しているのである。そして、今秋にはセカンドアルバムにして初のオリジナル曲収録CDのリリースを予定している。
おおいえさんにとっては、クラフトも音楽も和やかな雰囲気を創りだすという点では一緒なのかもしれない。彼女は言う。「北の暮らしに似合う音色やクラフトを通じて普段使いの温もりや寛げる空間を表現できたらと活動しています。」(HPより抜粋)

「おだやかな繋がり」
おおいえさんの周りには様々な人が繋がっている。それは一重に彼女の醸しだすふわりとした雰囲気と純粋な性格によるところが多い。縁を大切にし、人を大切にしている。だからこそ、松山農場の農場主柳生さんにも声をかけられ質の良い羊毛を素材として使うことができる。
札幌スタイルによって結びついた関係もある。澪工房の日下さんやキャンドル作家の福井さんとは普段から仲がよく、たまに食事に出かけるとか。そうした繋がりの中でアイデアが生まれ、次の創作へのインスピレーションを得ているのではないだろうか。
あの、ラムキンのような無邪気な笑顔でカンテレを奏で、クラフトを作っていく彼女だからこそ表現できる温かい世界がそこには確かにあるのだ。

(2011年12月)


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フェルト作家・カンテレ奏者 おおいえのりこさん

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