フェルト作家 Fairground Attraction 丹治久美子さん

「フェルトは「絵の具」」
フェルトバッグ作家の丹治久美子さんは、札幌スタイルに2007年に認証されリピーターができるほど幅広い層に人気の作家だ。20点以上もまとめ買いするお客さんや、最高齢は83歳の女性も彼女の作品を買っていくことからも容易に想像出来るだろう。
仙台に生まれ。母親が地元のドレスメーカー学院で学び、父親が技術者だったことが少なからず彼女のその後の「モノづくり」への想いに影響を与えたのかもしれない。
実際に本人にお会いすると、その無邪気でユニークな性格が垣間見える。

こんなエピソードがある。当時「坐禅会」なるものがあり、父親の意向もありよくお寺に通っていたそうだ。幼い子どもがよくそんな厳かな場所に、しかも坐禅しなければならない場所に通うのかと驚くが、本人曰く「ファンタが飲みたかったから」だそうだ。目的が明確である。
また、その柔らかな作風のイメージからは想像しにくい趣味もいくつかもっているようだ。
以前は自転車のロードレースの大会に出るほど自転車にはまった時期があったり、最近はお寺周りの際に持ち歩いてその寺の御朱印を頂く御朱印帳を持ってお寺を巡ることが楽しみの一つとか。ご本人に実物を見せていただいたが、その朱と墨液のイメージがグラフィック的に彼女の“ツボ”にはまるらしい。

手芸を趣味として常に創作することに親しんでいた彼女だが、北海道に住むようになったのは、学生時代の修学旅行で「たまたま」訪れた北海道の自然や風土に魅了され、強い憧れをいだいたため。
また、10代の時銀座で見た立花ハジメ氏の個展で、氏の描くグラフィック作品で「文字に色を感じた」ことがデザインするということの本質を見た気がしたと語っている。
確かに、彼女の作品はプライスタグ一つにも風合いが感じられてこだわりが随所に垣間見える。「パッケージやブランドの雰囲気、世界観づくりにはお金をかける主義」なのは、作品をトータルで「デザイン」することの重要性を理解しているからなのではないだろうか。

「10年間のキャリアながら“無名”」
手芸を続けてきた彼女にとって、厚手でその質感が独特なフェルトという素材に出会うのは自然なことだったのだろう。
驚くのは作品をつくり続けて10年以上、個展を1度も開いていなかったことだ。それまでは完全に趣味で作品を作っていたという。ほぼ独学でフェルトの本や海外でメジャーな作家のDVDを観たりして研究を重ねる。そこには、自分で納得したものでないと世に出してはいけないのだというストイックなまでの想いがあった。
ただ、作ったからには誰かに知ってもらいたいと思うのは当然のこと。つくりはじめて10年が過ぎた頃、彼女も例外ではなく、「どうやったらみんなに知ってもらえるのだろうか」という気持ちを強く持つようになった。
その頃徐々に浸透し始めたインターネット。そこに個人でホームページを作るということが比較的容易になり始めた時代がやってきていた。彼女もホームページを作るためだけに、今も現役で使われている黒いノートパソコンを買い、ホームページを完成させる。

ブランド名は「Fairground Attraction」。当時よく聞いていたイギリス・スコットランドのバンド名からとられている。活動期間が2年と短いバンドを自身のブランドネームにするのは、よほど思い入れがあったのだろう。
音楽といえば、ジョニー・ミッチェル、ジャズギタリストのパット・メセニー、ジャズ・サックス奏者のファラオ・サンダースがお気に入りとか。作品制作中も音楽は欠かせないアイテムのようだ。
こうしてフェルトのチョーカーやベレー帽を制作し始め、当初は主に本州方面からの問い合わせが多かったという。

「札幌スタイルで知名度がアップ」
転機は札幌スタイルの認証だった。「初めは地下鉄大通駅のショーケースに作品を展示したいと思ったのが札幌スタイルに応募するきっかけでした」とここでも明確な目的が応募の動機だったとか。
念願かなって今は2回目の認証を受けている。もちろん大通駅コンコースもトリ型のバッグを使って「鳥小屋」にしたという。
その、ブランドの象徴的なトレードマークにもなっているトリ型バッグは友人がお土産で鎌倉から買ってきた鳩サブレにヒントを得て作られた。シルエットの可愛らしさや丹治さん自身が鳥好きであったこと、意外なほど好評だったこともこの形のバッグが定着した理由だそうだ。

この札幌スタイルの認証を受けたことでその後の作品販路の広がりもみせている。三越などの百貨店への出品、作家たちの間では作品を扱われることが一種ステータスなスパイラルでのオンライン販売開始などここ3,4年で周囲の状況が変わってきたことを実感しているという。
20年近く北海道に住んでいてその冬の白い景観に映えることを意識して作られたバッグたちは、この「札幌スタイル」という公式な認証を得てようやくその真価が発揮され始めている。
「使う人が楽しんでくれて、アクセサリーの一つのようなイメージで使ってくれたら」というのが作家としての願いだ。

「作品作りは大いなる“実験”」
丹治さんにとって、フェルトは「絵の具」と一緒でその質感と色が大切な要素だと考えているそうだ。作品を作り始めた当初はフェルトの色もそれほど種類がなく、自分で染色することにも挑戦したことがあったほど。今は専門家が染色した豊富な色のフェルトを使って彼女独自の「柄」を生み出し続けている。
実際「誰が見てもこれは私の作品だとわかると思います」と自信をみせるほどその柄には独特な世界が広がっている。フェルトという収縮する素材で色同士がからみ合って意外性のあるものが出来上がっていくところに魅力を感じているのだという。
そういう意味では、丹治さん曰くその作品ごとが大いなる「実験」なのかもしれない。なによりその「実験」の末に出来上がった結果がたまらなくユニークで、独自の雰囲気を醸しだしていることに、見るものを魅了する魔法を秘めている気がしてならない。
「アイデアは常にパンパンにあって、出していかないとストレスになる」ほどの創作意欲がある丹治さんの次なる「実験」の結果を楽しみに待ちたいと思う。

(2011年12月)

認証製品詳細
フェルトバック

公式サイト
Fairground Attraction